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さいたま市のソフトウェアエンジニアのブログ

PMBOK第7版 第2章の概要|価値実現システムとプロジェクトの位置付け

PMBOK第7版 第2章は、原理・原則を理解するための前提となる章です。

ここでは具体的な手法やテクニックではなく、プロジェクトが組織の中でどのように位置付けられているのかという「構造」が整理されています。

この章を理解することは、以降の原理・原則を実務判断へ結び付けるための土台となります。


第2章の全体構造

第2章は、組織の価値実現システムという枠組みの中で、プロジェクトの位置付けを説明しています。

主な構成は次の5つです。

  • 価値の創出
  • 組織のガバナンスシステム
  • プロジェクトに関連した職務
  • プロジェクト環境
  • プロダクトマネジメントの考慮事項

これらは個別の概念ではなく、相互に関連する構造として示されています。

1. 価値の創出

本節は、プロジェクトを単独の活動としてではなく、組織がステークホルダーへ価値を創出する全体構造の中に位置付けることを示しています。

ここでいう「価値」とは、「あるものの値打ち、重要性、または有用性」を意味し、その認識はステークホルダーごとに異なります。顧客は機能や利用能力に価値を見出すことがあり、組織は財務的な事業価値に焦点を当てることがあります。また、社会的価値としてコミュニティや環境への貢献が含まれることもあります。

価値を創出する主体はプロジェクトではなく「組織」です。組織は戦略に基づき、ポートフォリオやプログラム、プロジェクトなどの構成要素を通じて価値を生み出します。プロジェクトはその構成要素の一つに位置付けられます。

プロジェクトが生み出し得る価値には、新規プロダクトやサービスの創出だけでなく、社会・環境への貢献、効率性や生産性の向上、望ましい将来状態への変革の実現、既存ベネフィットの維持などが含まれます。価値は新規創出に限定されるものではありません。

これらの構成要素は個別に存在するのではなく、互いに関連しながら戦略と整合した一つの全体構造を形成しています。本標準ではこれを「価値実現システム」と呼びます。この構造は組織の内部環境の一部であり、さらに経済状況や競争環境、法的制約などの外部環境の影響を受けています。

さらに、この構造は静的な配置ではなく、情報とフィードバックが双方向に循環する動的な仕組みとして機能します。戦略情報は上位から下位へ伝達され、望ましい成果や価値の方向性が示されます。一方で、プロジェクトや定常業務からはパフォーマンス情報や成果の状況が上位へと報告されます。この循環により、組織は戦略との整合を維持しながら環境の変化に適応します。

この構造を理解すると、プロジェクトで発生する課題を単体の問題ではなく、全体構造との関係の中で捉えることができます。

例えば、リソース不足やメンバーの負荷増大といった事象は、必ずしもプロジェクト内部だけの問題とは限りません。ポートフォリオ全体の優先順位や組織の方針、他プロジェクトとのリソース配分との関係の中で生じている可能性があります。

同様に、品質課題への対応をプロジェクト予算の範囲で解決しようと考えている場合でも、組織全体で品質向上活動が別途進められていることがあります。プロジェクトを全体構造の一部として理解していれば、こうした組織的な取り組みとの接続を検討することができます。

このように、課題解決の選択肢はプロジェクト内部に限定されるものではなく、構造全体の中で検討され得ます。

「プロジェクトが価値を生む」という単純な理解ではなく、組織全体の構造の中で位置付けて理解する必要があります。

2. 組織のガバナンス・システム

本節は、組織には「価値を創出するための意思決定の仕組み」が存在しており、プロジェクトもその枠組みの中で運営されることを説明しています。

ガバナンス・システムとは、誰が意思決定を行うのか、どのように報告するのか、どのように評価するのかといった、組織全体の判断ルールを定めた仕組みです。これには、監理、コントロール、統合、価値評価、意思決定の権限といった要素が含まれます。

プロジェクトは、この組織のガバナンスの中に位置付けられます。したがって、レポートの形式や変更承認のルール、重要な意思決定の方法は、原則として組織のガバナンスに沿うことになります。

プロジェクトが独自の判断構造を作り、組織のガバナンスを無視して運営されると、上位との整合が取れず、意思決定の停滞や責任の曖昧化を招く可能性があります。

また、プロジェクトは外部環境や他の構成要素とも連携しながら進みます。その連携も、組織のガバナンスの枠組みに沿って行われます。

プロジェクトが組織のガバナンス・システムの中に位置付けられているという前提を示しています。

3. プロジェクトに関連した職務

本節は、プロジェクトは「人」が推進するものであり、その役割の在り方と調整の仕方が成果を左右することを整理しています。

プロジェクトに関連する職務は、特定の一人に限定されるものではありません。一人が複数の職務を担う場合もあれば、複数人が分担する場合もあります。また、状況や組織の特性に応じて役割の形は変わります。

特に重要なのは、「集団としての作業の調整」です。調整の方法には、自己組織化されたチームによる分権的な形態もあれば、任命されたプロジェクト・マネジャーによる集権的な形態もあります。状況に応じてその組み合わせもあり得ます。

いずれの場合も、支援型リーダーシップと、プロジェクト・チームおよびステークホルダーとの継続的で有意義な関わりが、成果、ベネフィット、価値の実現を支えます。

さらに、プロジェクトには多様な職務が存在します。監理と調整、顧客からの目標とフィードバックの提示、ファシリテーション、作業の実行、専門知識の提供、事業の方向性の提示、資源確保、ガバナンスの維持などです。

これらは固定的な役職一覧ではなく、プロジェクト、組織、環境のニーズに応じてテーラリングされます。

プロジェクトの成功は単一の役職に依存するものではなく、適切に調整された役割の集合によって支えられます。

4. プロジェクト環境

本節は、プロジェクトが常に一定の環境の中で遂行されることを整理しています。

プロジェクト環境には、組織内部の要因と外部の要因の両方が含まれます。内部要因には、組織文化や組織構造、既存のプロセスなどがあります。外部要因には、市場環境、規制、社会的要因、経済状況などがあります。

これらの環境要因は、プロジェクトの計画、意思決定、リスク対応、資源配分に影響を与えます。環境はプロジェクトの外側に存在しますが、その影響は常にプロジェクト内部に及びます。

プロジェクトは独立した存在ではありません。常に内部環境および外部環境と相互作用しながら進行します。

プロジェクトで発生する課題や変化を、プロジェクト内部の問題としてのみ捉えるのではなく、環境との関係の中で理解する必要があります。

5. プロダクトマネジメントの考慮事項

プロジェクトとプロダクトマネジメントの関係を整理しています。

プロダクトはライフサイクルを持ち、その各段階で能力の構築や強化のためにプロジェクトやプログラムが立ち上げられます。

プロジェクトは有期的な取り組みですが、プロダクトは継続的に価値を提供する対象です。

プロジェクトがプロダクト・ライフサイクルの中で活用される構成要素であることを示しています。


なぜ第2章が重要なのか

プロジェクトでは、要件の認識齟齬、予算制約、日程遅延、環境変化など、さまざまな問題が発生します。

その際に必要となるのは、「その場しのぎ」ではなく、プロジェクトが組織の価値実現システムの中でどの位置にあるのかを踏まえた判断です。

プロジェクトは単独で存在するものではありません。

ポートフォリオやガバナンス、職務分担、環境要因との関係を理解して初めて、適切な意思決定が可能になります。

第2章は、こうした構造的な前提を示しています。


まとめ

第2章は、プロジェクトを組織の価値実現システムの中に位置付けるための構造を示しています。

この構造を理解した上で原理・原則を読むことで、それらは実務判断の枠組みとして機能します。

プロジェクトマネジメントを、技法の集合ではなく組織活動の一部として捉えるための基盤が、この章で整理されています。

 

▶ 次回:PMBOK第7版 第3章|12の原理・原則をどう読むべきか